Paradox

ぼくは錆びた鉄の螺旋階段を上っていた。

その階段は錆び止めの赤茶色の塗料とさびが混ざり合い、独特の色を醸し出している。

風が強い。
ここは建築物なのだろうか。
いや、巨大な飛行物体なのかもしれない。
時折ゆれる、その感覚が、地面に植わっているものとは異質な感覚だ。

ガラスのはまっていない窓からは真っ青な空が見える。
青空とは対照的な赤茶けた建物の丸くうねった屋根が続き、空とのコントラストを際立たせている。
いま上って来た方向を振り返ってみると、螺旋階段の先が漆黒に吸い込まれている。
それは、あたかも生き物の食道を連想させ、戻ることは叶わないと感じた。

手には袋を持っている。
袋の中にはhtmlコードの一部が入っている。

<p>本日の日替わり定食<br />
天丼・カレーセット</p>
</div>
</div>

divタグは終了タグのみで、開始タグが見つからない。
これじゃ表示制御ができないじゃないか。
mt:EntryBodyに入る原稿のはずなんだが、これじゃあマズい。

どうやら一番上に着いたようだ。
ネズミ色に塗られた扉の前に立った。
その扉は何度も塗り直しをされたらしく、ペンキにスジ状の段が幾重にもついている。
ぼくはその扉とは対照的な、ステンレスの球状のドアノブをつかみその扉をほんの少しだけ押し開いた。

どうしてぼくはここに来たのだろう?

そうだ、おしっこがしたかったのだ。
少し前の、朧げな記憶がそう思い出させた。
そう、だれかに教えられて、ここまで上ってきたんだった。
開いた扉の隙間を覗いてみる。
中には小さな間仕切りと、透明な容器が透明なパイプで床につながっている実験装置のようなものが見える。
「ここでしちゃおーっとニヤ」
いたずらするようにここでおしっこをすることにした。

ぼくはおもむろにイチモツを出し、扉を開けた隙間から間仕切りの向こうの実験装置のようなものにむかって放尿した。

結構な量のおしっこが出ているはずだが床には流れてこない。
不思議に思ったぼくは、いちど放尿を止め、観察する。
「ん?透明なケースの中に溜まっている?」
そう、ぼくのおしっこは実験装置のようなセグメントの上部にある透明な筒状の容器の中に入り、透明なパイプを通って床下へ向かって流れているようだ。
その結果、床には溜まらないようだ。
もう一回試してみた。
やはり、容器を経由して床下へ流れている。
ぼくは面白くなった。

そこでふと気がついた。
扉の陰(ぼくの左側だが)に、背広姿の小柄なじいさんが背中を向けて立っている。
どうやら小便器に向かって立っているようだ。
背広の背中が濡れている。
ぼくのおしっこがかかったのかもしれない。
ぼくは気づかない振りをして、つづきのおしっこを出そうとした。
おしっこは、さっきまで小部屋のおくの間仕切りの向こうまで届いたはずなのに、なぜか遠くなったのだろうか、届かなくなってしまった。

一度イチモツをズボンのなかに格納して奥に入っていくことにした。
中の右側の壁に、先ほどのじいさんの背広が掛けてある。
やはり腰から下が濡れている。

「ふーむ、○○子か!」
背後から急に小柄なじいさんが話しかけてきた。
ぼくはとっさに、
「えぇ、妻です」
とまだ結婚には至っていない女性のことをそう答えた。
おしっこをかけてしまったかもしれないことが気の毒になった。

「ここは危ない。もう出よう。」
じいさんに促され外に出た。
何が危ないのだろう?
赤茶けたうねった屋根の上をじいさんと二人で小走りに進む。
テラコッタか軽石のような、発泡性の感触。
石なのか樹脂なのか、はっきりしない不思議な足の感覚。
周囲には風力発電のプロペラだろうか、それとも飛行用の推進装置なのだろうか、無数のプロペラが回っている。

「そこまでだ!止まれ!」
振り返ると革ジャンとジーンズ姿の藤岡弘がサイレンサーとレーザーポインタのついた銃をこちらに向かって構えている。
じいさんは腰を抜かして倒れた。
ぼくはじいさんの小便臭い背中を支えた。

「お前たちは何をしている?」
「トイレに行っていただけだ。」
「どうやって、あそこから移動できた?」

そうか、階段を上りだす前は椅子とテーブルのある部屋にいたんだ。
でもその部屋がどこにあるのか皆目見当がつかない。
説明ができず、まごついていると若い頃の郷ひろみが、
「危ない!」
と叫んで片膝をついたオーバーなアクションで指をさした。
藤岡弘は左手で銃を構え、ツイていないブルースウィルスよろしく、銃を持った手の甲を上に向けるよう傾けながらこちらを狙っている。

そのときだった、郷ひろみとは反対側の丸い窓からローラが顔をだし、
「ローラだよ♪グリプスは要塞だよ♪ワープしたんだよ♪」
といいながら、

<div id="hogehoge">
<div class="fugafuga">
<p>本日の日替わり定食<br />
天丼・カレーセット</p>
</div>
</div>

と書いたプラカードを掲げた。
ここはグリプスという要塞だったのか!

ぼくは整ったhtmlコードをみてホッとした。
これで再構築を走らせても大丈夫だ、と。

藤岡弘と郷ひろみが叫ぶように何やら話しているが、風の音でかき消されてよく分からない。
その風の音は音楽のようだ。
耳を凝らしてみた。
聞き慣れた音楽だ。
ん?4時か?

iPhoneのアラームが起床時間を告げていた。
夕べはバッグに入れたまま寝たんだった。
ベッドから起き上がり、音のする方によろよろと歩いていく。
バッグのバックルを外し、ベルクロをはがす。
べりべりと大きな音が喧しい。
鞄のなかを手探りで探し、iPhoneを取り出す。
アラーム音を消した。

ぼくはこの夢のことを忘れないように、リビングテーブルに置いてあったMacを開いて記憶を書き始めた。

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